<血縁関係のない子の認知は無効との最高裁判決について>

(※本記事記載の時点では事案の詳細はわかりかねますので、あくまで筆者の想像、解釈も含まれます)

【事案】

原告は広島県の男性で、フィリピン人女性と結婚後の2004年に同国にいた女性の娘(17)を、実子ではなく、血縁関係がないと知りながら認知しました。しかし、夫婦関係の破綻などの理由で、男性は認知無効を求めて提訴しました。この認知無効の訴えは認められるのか?

 

【争点】

民法は、認知した父と母による認知取り消しを禁じる(785条)一方、子や利害関係者からの無効請求を認めており(786条)、訴訟ではこの規定の解釈が争われました。

 

【結論】

男性が血縁関係がないと知りながら自分の子として認知した後に、認知した男性自身が無効を求められるかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は認知者側の請求を認める判決を言い渡しました。

理由としては、認知に至る事情はさまざまで、認知が自らの意思だったことを重視して無効主張を許さないのは相当でない、とのことです。

 

【解説】

そもそも、民法785条が「認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない」とするのはなぜか、というと、認知という重要な身分に変動をもたらす行為に対し、自由に取り消せる、とすると、認知される子供にとっては親が簡単に変わってしまうことになるので、認知行為を慎重にさせる必要があるからです。

一方、民法786条は「子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる」としており、勝手に認知されたとしても、認知無効の訴えを起こして、血縁関係がないことを主張、立証し、認知を無効ならしめることが可能です。

 

じゃ、この「利害関係人」に認知をした者(今回の場合父)が含まれるのか?という点ですが、2通りの考え方があり、

 

1.含まれる→認知した父は無効主張ができる。よって過去に認知しても認知した子供とは親子関係がないことを主張できる。

理由①:条文上無効主張できつのは「子又は利害関係人」としかいっていない。認知した者は除く、とはなっていない。

②:認知は血縁関係のあるものに親子関係を生じさせる制度であるから、血縁関係の事実のないものにまで認知の無効を認めないとするのはおかしい。

③:無効主張が不当な場合は、権利濫用として主張を封じればよい。

 

2.含まれない→自分の子供でないと法律上主張することはできない。

理由①:認知したものの取り消しを認めないという法の趣旨は、無効を主張する場合にも妥当する。

②:認知をしたものが無効の主張を認めると、子供に不利益を及ぼす。

 

ということになります。

最高裁の裁判官の考えは、1.のほうで、 「認知者は利害関係人にあたり、規定が無効主張を制限しているとは言えない」、つまり民法の条文上「認知をした父・・は、取り消すことはできない」とは言ってるけど、「無効」を主張できないとはいってないでしょ、と。

じゃ、もし認知した人が個人の都合で無効主張してきて、どうみてもこの主張むちゃくちゃやな~という場合はどうするの?こんな場合でも無効主張認めちゃうの?という批判に対しては、

「その場合は認知者に権利濫用がある場合は主張を制限することも可能だから、大丈夫」

ということのようです。

 

 

では、この場合、認知が無効になるとどうなるのか、その影響について説明します。

この請求が認められれば、認知は基本的に「もともとなかった」ことになります。そして、娘はもともとこの「認知」があったことにより、日本国籍を取得していたようです。

そうすると、認知がなくなる以上、長年日本人として生活してきた娘は日本国籍を失います。すると「外国人」ですから、日本に在留するためには「在留資格」が必要となります。

しかし、日本で日本人として生活してきたのだから、当然そのような在留資格はない、そうすると娘さんは在留資格がなく在留しているから不法滞在になる。

そうすると不法滞在者としてフィリピンに強制送還(強制退去処分)されるのが原則となります。

ただ、これはさすがに娘さんはかわいそうだ、という事情があれば、きちんと手続きすれば、在留特別許可により、「定住者」等の在留資格がもらえる可能性は十分にあるのではないかな、と個人的には思います。

なので、今回の場合、男性は認知を無効にでき、フィリピン人母と子は「定住者」としての在留資格を場合により認める(現在の母の在留資格は不明ですが)、というような形で、結局具体的妥当性は図られるのはないでしょうか。

とはいえ、権利の濫用として無効主張が封じられる可能性もありますので、自分の子供でもないのに可愛い女性に頼まれたからといって軽々しく認知をすべきではないです。

何より、認知は子供への影響が大きいですから、目の前のことだけでなく、子供の将来をよく考えて行う必要がありますね。

これは、民法、国籍法、入管法にわたる非常に興味深い判例で、また、フィリピン人の子供に日本国籍を取らせるため、このケースと同様に偽装認知(※違法ですので絶対にやってはいけませんが)をした事例は他にもあるでしょうから、今後同様の認知無効の訴えは増加するのではないでしょうか。

とにかく、外国人問題に関わる専門家にとっては、業務に関連し、今後重要判例になる可能性があるのではないかと思います。