フィリピンのアナルメント手続きとは?

フィリピンは原則として離婚が認められていない国であり、アナルメントは非常に重要かつ複雑な法的手続きです。
フィリピンでは、宗教上・文化的背景から「離婚」が法律上認められていないため、婚姻を解消する必要がある場合は アナルメント(Annulment) または 婚姻無効(Nullity of Marriage) を利用します。

これは、日本の「離婚」やフィリピンの離婚承認裁判とは異なり、“結婚そのものが最初から無効だった” と法的に認定する制度です。

アナルメントが認められる主な理由(法的根拠)

フィリピン民法及び家族法に基づき、以下のような限定された場合にアナルメントが認められ得ます。

1. 心理的無能力(Psychological Incapacity)

最も一般的な理由で、以下のようなケースが含まれます。

①配偶者が結婚生活を維持できる精神的成熟度に欠けている

②重度の性格的障害

③結婚当初から継続的に夫婦生活を営めない要因があった

裁判所の判断が必要で、心理学者の鑑定も行われます。

2. 同意が不完全・強制された結婚

①脅迫、強要、欺瞞による結婚

②未成年で親の同意がなかった場合

3. 結婚手続き上の重大な違法性

①結婚許可(Marriage License)がない

②適切な司式者による挙行でなかった

③重婚や近親婚に該当する

 

このことからわかるように、単に「趣味趣向や性格が合わない」や「暴言を吐かれた」「夫が結婚後他の女性と浮気をして行方不明になった」等の理由ではアナルメントは認められませんのでご注意ください。

アナルメントの手続きの流れ

① フィリピン弁護士への相談・委任

アナルメントは完全に裁判手続きであり、弁護士の代理が必須です。

② 書類収集

婚姻証明書(PSA発行)

当事者の出生証明書

婚姻履歴証明書(ADVISORY ON MARRIAGEなど)

心理的無能力の場合:心理士・精神科医によるレポート

③ 心理評価(必要な場合)

心理テスト、面談、生活歴などをもとに専門家がレポートを作成します。

④ 裁判所への申立て(Petition Filing)

提出後、裁判所が審理を開始します。

⑤ 検察官・社会福祉担当者による調査

フィリピンでは「婚姻の保護」が重視されるため、検察官(Prosecutor)が調査に関与します。

⑥ 裁判(Trial)

証人尋問、心理レポートの提出、弁護士による主張などが行われます。

⑦ 判決(Decision)

裁判所がアナルメントを認めれば、婚姻が「遡及的に無効」となります。

⑧ PSA 記録の更新(Annotation)

判決確定後、PSA(フィリピン統計局)に記録が反映され、
婚姻証明書に「Annulled」と注記されます。

アナルメントの手続きにかかる期間

一般的には3〜4年が目安ですが、次の要因で延びることがあります。

①裁判所の混雑

②証人確保の難しさ

③書類の不備

④心理評価の遅れ

⑤弁護士の経験

過去事例では、4年以上かかって棄却された例もあるようですので、かなりの覚悟が必要です。

アナルメントの費用の目安

ケースや弁護士によって大きく異なりますが、一般的には
20万〜60万ペソ程度(日本円換算:約50〜150万円)
と言われています。

心理評価や追加証人が必要な場合は、さらに増えることがあります。

アナルメントに日本人が関わる場合の注意点

● 日本側の婚姻記録との整合性

アナルメント成立後、日本での婚姻解消の届出、裁判所への書類提出(翻訳・認証)などが必要です。

● 日本人は「離婚」として扱われる可能性がある

日本の法律では「婚姻無効」とは別の扱いになる場合があるため、
日本側手続きは市区町村役場に確認するのがおすすめです。

● 代理人申請が基本

日本在住者は、フィリピン弁護士に裁判手続きを全面委任することができます。

フィリピンのアナルメント・離婚承認裁判・日本の離婚の比較表

項目 フィリピンのアナルメント(Annulment) フィリピンの離婚承認裁判(Recognition of Foreign Divorce) 日本の離婚(協議離婚・調停・裁判)
フィリピンでの法的分類 婚姻無効(結婚が「最初から無効」) 外国で成立した離婚をフィリピンでも有効と認める裁判 離婚(婚姻の解消)
主な対象者 どちらか、または両方がフィリピン人の場合 日本人+フィリピン人のカップル 日本国民(国際離婚も可)
婚姻の扱い 遡って婚姻が無効になる 日本での離婚をフィリピンでも有効とする 離婚時点で婚姻関係が終了
手続きの難易度 とても高い(心理評価・裁判が必要) やや難しい(申立てと日本の離婚証明の提出) 難易度は低〜中(協議が可能であれば)
必要文書 PSA婚姻履歴証明書、出生証明書、心理レポート等 日本の離婚証明(離婚届受理証明書など)、翻訳、認証、アポスティーユ等 戸籍謄本、本人確認書類など
費用の目安 30万〜60万ペソ(日本円90万〜180万円) 20万〜30万ペソ程度(日本円60万〜90万円) 協議離婚はほぼ無料、裁判離婚は弁護士費用が必要
手続き期間 約3〜5年(長期化することも多い) 2年~4年程度 協議は即時、調停・裁判は数ヶ月〜数年
裁判の必要性 必須 必須 協議離婚は不要、調停・裁判は必要
心理評価(心理的無能力) 必須になるケースが多い 不要 不要
PSAへの記録反映 「Annulled」と注記される 「Divorced」と注記される 婚姻の消除が戸籍に記録される
再婚可能になるタイミング PSA記録更新後に可能 PSA記録更新後に可能 離婚成立後すぐ可能
日本での扱い 日本の婚姻も別途解消手続きが必要 日本で離婚済みなので追加手続きは原則なし 日本では正式な離婚として扱われる

 

① アナルメント(Annulment)

  • フィリピンに離婚がないため存在する制度

  • 「結婚が最初から無効」になる特殊な手続き

  • 高額・長期・複雑で、心理評価がほぼ必須

  • フィリピンで新しい婚姻をするために必要

② 離婚承認裁判(Recognition of Foreign Divorce)

  • 日本で離婚した後、フィリピン側でもその離婚を認めてもらうための裁判

  • アナルメントよりはやや簡易な手続きで費用・期間も短い

  • フィリピン人配偶者が再婚するには必須

③ 日本の離婚

  • 協議離婚が可能で最も簡易

  • 日本側で離婚しただけでは原則としてはフィリピン人は再婚できない(※例外あり)

 

総括

アナルメントは複雑だが確実に婚姻を解消できる制度

フィリピンでは離婚ができないため、結婚生活を続けることが不可能な場合の重要な法的手段がアナルメントです。

ただし、そもそもアナルメントができる条件が厳しく、多くの場合、条件を満たしていないことが多いです。

さらに、

①時間がかかる

②費用がかかる

③証明書類が複雑

④裁判所・検察官・心理士の関与が必要

といった難しさもあり、事前の準備が非常に重要です。

当事務所では、フィリピンの弁護士と協力し、フィリピンのアナルメントをサポートしていますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

(※相談費用:30分5500円)